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「あの爽やかキラキライケメンは最低ヤローだったわけね!」
「最低ヤロー?」

 蓮くんを想うとつらくて今までの事を全部話してしまった。小学校で出会ってすごく仲良かったこと。急に絶縁状態になったこと。大学で再会してから好きになってしまったこと。彼女がいるのに近づきすぎてしまったこと。

 ずっと静かに聞いてくれたのほちゃんだったけど、話が終わった直後、彼女の口からひどい言葉が飛び出して思わず聞き返してしまった。

「ずっと恋愛に縁がなかった桃花が初めて好きになった相手がそんな最低ヤローだとは。彼女がいるくせに手を出してくるだと?」
「手を出されたわけでは…?私のせいだったのかも?あの時、ぼーっとしてて今となると記憶が曖昧だよっ」
「あんなに爽やかで人類みな兄弟みたいなオーラを出してるくせに陰で女食ってんのかいな。」
「女食っ…?イヤイヤ、蓮くんはそんな人じゃないよ?」
 
 すさまじい蓮くんの悪口に思わず蓮くんの肩を持ってしまった。

「はあ?」
「ひっ!」

 ほのちゃんが思い切り顔をしかめた。

「桃花は弄ばれてるくせにまだアイツの肩を持つわけ?目をさませ!」
「だ、だって…蓮くんは昔と変わらず明るくてキラキラしてて優しくって…悪い人には思えない」
「7年ぶりだっけ?人間ってのはね、そんだけあれば天使が悪魔にだってなるんだから!桃花が知ってるのは小学生のころでしょ?完全にこどもじゃない!ありえない!こんなかわいい桃花をこんなに泣かせて…許せない…イケメンすけこましめっ!」
「すけ…?ぷっ…ふふっ」

 ほのちゃんの悪口が面白い。自分のことのように怒ってくれている。ふふっ。ほっこりする。ホント、ほのちゃんがいてくれてよかった。すこし気持ちが楽になった気がする。

「あはは…ほのちゃん、いいなぁ。ふふっ…うっ。ぐすっ…ありがとう。」
「ああ、もう。泣かないでよ~!ホント、クソだな!電話かして!電話!」
「え?電話?」

 何するんだろうと思いつつ渡した。

「クソはどこ?きっちり話つけてやる!このすけべぇ野郎が!許さないぞ」
「え?電話するの?やめて!やめて!」

 ほのちゃんから電話を取り返したらちょうど着信履歴の画面になった。ズラリと並んだ蓮くんの名前。

「…何よ。クソの名前ばかりじゃん。」

 蓮くんの名前が目に入り、また胸がツキンと痛んだ。もう重症だ。名前を見ただけでも会いたくなる。

「公園でのことがあってからずっと避けてるの。そのせいか蓮くんから連絡がすごく来るんだ。」
「何なのよ…?反省でもしてるのか?」

 あれ以来、ずっと避けている。朝の通学も会わないように時間をずらしたり、車両をずらしたりしている。唯一同じ授業である韓国語の授業でも会わないようにぎりぎりで教室に入って一番後ろの席に座っている。もちろん授業が終わったらすぐ逃げるように教室を出る。今のところ蓮くんには捕まっていないけれど時間の問題かもしれない…学内でもうっかり会ってしまわないように常にドキドキしている。電話もメッセージも毎日のように来るけど一度も返していない。顔を見たら、声を聞いたら、我慢している気持ちがあふれてしまいそうで怖い。

「一度ちゃんと話した方がいいんじゃないの?桃花もこのままじゃ前に進めないじゃん。」
「ダメだよ…無理…」
「ちゃんと告白して、振られてきなよ。それか、また手を出してきそうになったら思いっきり蹴り飛ばして暴言でもむちゃくちゃ吐いてきなよ。」
「また小学校のころみたいに蓮くんに避けられたらもう立ち直れないよ…それに蓮くんに見つめられたら拒める自信ない…体が動けなっちゃうんだもん。」
「桃花ぁ~」

 ほのちゃんが抱き締めてくれる。

「私が一緒に行こうか?」
「ううん?ありがとう...もう少し気持ちが落ち着くのを待ってみるよ」
「つらかったらいつでも言うんだよ?」
「…うん」

 蓮くんへの気持ちがなくなるにはどのくらいの時間がかかるかな。それまでこうして避けなければいけないのかな。正直故意的に人を避けるのはすごくつらい。本当は顔を見たいし、声を聞きたいし、会いたい。柚葉ちゃんがそばにいるのを見るのが辛い。私だけの蓮くんでいてほしい。いつの間にこんなに欲張りになっちゃったんだろう。私の気持ちが治まればまた友達にもどれるのかな。こうやって避けてても解決しないのはわかってるし、友達にも戻れなくかもしれない。でも、今の私にはこの方法しか思い浮かばないの。