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 2限が終わった12時半。大学内の食堂で一緒に昼食を食べることにした。俺はかつ丼ランチでももはうどんランチ。

 8年の空白時間を埋めるべくいろいろ質問した。中学は同じだったけれど話したことは一度もなかった。ももの事なら何でも知りたい。

「ももは高校どこ行ったの?」
「私はA高校だよ。レンくんは?」
「俺はB高。てかもも、A高だったんだな。俺サッカーの練習試合でよく行ってたよ。全然会わなかったな。」
「私は文化部だったから週末は学校行かなかったんだよね。」
「はは。そりゃそうか。」

 初めは戸惑っていたももだったけど、今は穏やかな笑顔を見せてくれている。そんな彼女の顔を見ているとじんわりと胸に幸せが広がった。会いたくて仕方なかったももが隣で笑ってくれてる。

「文化部って何してたの?」
「茶道部だよ。」
「ははっ。ももらしいね。和菓子好きだもんね。」
「え?よく覚えてるね。」
「そりゃあ、覚えてるよ。もものこと忘れたことない。」
「えっ...は...ははっ。そっか。ありがとう。」

 ももの顔が明らかに一瞬歪んだ。まるで愛想笑いをしたような不自然な笑い声。やば。引かれた?気持ち悪かったか。そんな俺の動揺を気にすることなくももは話題を変えた。

「サッカー部ってことは田中くんとよく試合したってことだよね。」
「え?田中?誰?」
「わかんないかな?眼鏡かけて背が高くて…」

 ももが顎に手をかけて斜め右上を見ながら話す。

「田中祐介くん。髪が茶色で…」
「ああ!分かった!よく女子たちが応援に来てた!」
「そうそう!3年の時同じクラスだったけどすごく人気あったんだよ。サッカー部と言ったら田中くんみたいな。」

 ももの口から他の男の話が出て気分が悪くなった。

「何?ももも好きだったとか?」

 思わずとげとげしい言い方になってしまう。

「え?違う違う!住む世界が違いすぎるよ。一回も話したことないと思う。」
「そっか。よかった。」

 安心して本音が漏れてしまった。ももが不思議そうな顔をして見つめてくる。久しぶりの再会で舞い上がってるのかいまいち距離感がつかめないし、変なことを口走ってしまう。

「ごちそうさまでした。よし、行こう。もも帰るなら一緒に帰ろ。」
「う、うん…」

 気まずそうにするももに気づかない振りをして足早に食堂を出る。断られないようにさっさと足を進めた。後ろからついてくるももを横目で見る。もう少し一緒にいられると思い自然と頬が緩んだ。