「ももに避けられてる気がする…」

 諒太の部屋でつぶやいた。

「は?」

 諒太の冷たい目線が突き刺さる。よく知らない人なら怒っているのかと思いがちだけど、諒太はこれが普通だ。俺はもう慣れた。

「電車でも会わないし、学校でも会わないし、メッセージも返事ない…」
「…ふ~ん」
「ふ~んって何だよ。こっちはめちゃくちゃ落ち込んでるってのに」

 ももも俺と同じ気持ちだと喜んだ束の間、いきなりそっけなくなった。何が何だかわからない。

「それよりさ、柚葉とはちゃんと話したのかよ?」

 諒太がソファにもたれながら無表情で俺を見る。

「ま、まあ。」

 目を泳がせながら歯切れが悪くなってしまった。いつも思うけど、諒太の部屋は落ち着かない。おしゃれすぎてまさに諒太の部屋って感じ。おしゃれなクッションを抱き締めておしゃれなソファに気だるげに座る諒太はまるでファッション雑誌の1ページのようだ。まあ、落ち着かないのは部屋のせいだけではないけれど。

「柚葉に告白された?」
「えっ?」
「ちゃんと振ったんだろうね?」
「……」

 予想外の展開に諒太を見つめたまま固まってしまった。

「なに?」
 
 諒太が表情を変えず答えた。

「なんで…?」

 はあ~と諒太が大きな溜息をついた。

「柚葉の気持ちに気づいてないのはお前だけだよ。ホント、お前はそっち方面鈍いよな。」

 マジで?全然気づいてなかった。公園で言われるまで。

「え?いつから…え?…友達に戻ろうって言ったの柚葉だけど…」
「そんなのずっとにきまってんだろ。」
「え?え?どういうことだ?」

 俺が中学の時、振られたんだぞ。だから友達に戻って、友達として仲良くしてきたはずだ。俺の一番の女友達だと思っている。柚葉もそう思ってくれてると思ってた。

「お前付き合ってる時も今も柚葉に対して何にも変わらなかっただろ?」
「そ、そんなことねーよ。」
「柚葉のこと好きじゃなかっただろ。」
「……」

 図星で何も言えない。当時は柚葉のことが好きだと思ってた。自分なりに大事にしていたつもりだった。でも、もものことが好きだと気づいてからは、柚葉に対する気持ちが友達以上のものじゃなかったんだってはっきりわかった。再び出会ってからはもう気持ちを押さえておくのも難しいくらいももを欲してる。

「俺はお前らの中学の頃なんか知らないけど、何となくわかるよ。どんな感じで付き合ってたのか。ホント、柚葉がかわいそうだ。」

 いつも淡々としている諒太の目が揺れた。少し感情的になっているように思える。

「蓮也、お前はホント人たらしだもんな。」
「人たらし?何だよソレ」
「お前はコミュ力が高すぎんだよ。男にも女にも。誰にでも気さくに付き合うし、優しい。みんなに好かれる。それが蓮也のいい所だけど、悪いところでもあるよな。しかも恋愛方面には鈍感でアホすぎるし。」
「うっ。」

 反論もできない。恋愛方面に鈍いのはわかっている。諒太の言葉がスパッと胸を切る。でも、こんなはっきり毒舌な諒太が俺は好きなんだ。

「付き合ってはいるけど、全然好かれている気がしない。自分が他の人よりも大事にされている自覚が持てない。柚葉はずっとこんな気持ちだったんだろうな。手に取るようにわかるよ。」

 すごいな。俺より断然俺のことをわかっている。

「はあ~あ。柚葉がかわいそうだ。そんなんで付き合うなよ。」