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「あ、あそこの店いいんじゃない?」
「ちょ、俺まだクレープ全部食べてないんだけど」
「早く全部入れちゃって」

 約束の金曜日夜。夜7時頃。レンくん、柚葉ちゃん、諒太くんと一緒に買い物に来た。智くんはあのあと返事がなく、結局今日も来なかった。以前の飲み会では智くんも来たがっていたのに。

 諒太くんがクレープを口に押し込みながら前を行く柚葉ちゃんを追いかける。

「あはは。二人楽しそうだな。」

 レンくんが楽しそうに二人を見た。

「私まだ全然食べ終わってないよ。」
「大丈夫。ゆっくり食べて。どうせ服まだ決まらないだろうしね。」

 さっさと新しいお店に入って行った二人を見つめながらクレープをかじる。

「これなんかどう?」
「却下。もものイメージじゃない。」
「えー?こういう違うテイストもももちゃんに似合うと思うけどな~」

 逆に申し訳なくなるほど二人が私の服を真剣に選んでくれている。

「ももちゃ~ん、これよくない?」
「……」

 口の中がいっぱいで話せない。あいまいに笑って柚葉ちゃんに手を振った。

「ちょっと~まだ食べてるの?早くきてよ」
「…っ…ご...めん」

 ホント、私は何でも行動が遅いからダメだな。食べるのも遅いし、運動も下手くそだし。勉強も要領悪いから時間かかるし…キラキラした3人を見て溜息が出た。みんなすごいなあ。この大学に入るのにもすっごくすっごく勉強したのに。世の中には何でもできる人ってのが存在するんだもんな。

「レンくん、遅くてごめんね。先行ってくれる?私いつも遅くなっちゃう...」
「え?遅くないよ!あいつら急いで食べすぎなんだよ。どんだけはしゃいでんのか。ほら。俺もまだ残ってるし。」
「うっ。ありがとう。優しいね」

 レンくんの優しい嘘。わざとゆっくり食べてくれてる。

「大丈夫。ゆっくりで。誰も気にしてないから。」

 優しく微笑みながら頭をポンポンなでてくれた。

 トクン。

 胸が甘く音を立てた。その笑顔は反則だよ。レンくんはたまにすごく優しく甘く笑う。何だか一人気まずくなって目を逸らしてしまった。こんな顔は私は知らない。落ち着かないよ。

「違うとこ行こ」

 柚葉ちゃんと諒太くんが店から出てきた。

「あ、お前らごみちょうだい。捨ててくる。」
「サンキュ」
「蓮也ぁ、あそこの店に行ってるね。」
「おーわかった」
「もも、ごみ。あそこ捨てに行こう」
「ありがとう。これ...っ!!」

 レンくんの手が私の手ごとごみを掴んだ。ゴツゴツした大きな手に触れられ思わずびっくりして手を離してしまった。丸めたクレープの包み紙ころころ転がった。うっ!恥ずかしすぎる!こんなことで反応しちゃうなんて...!もぅ。

「…ふっ。真っ赤」

 私が落としたごみを拾いながら、レンくんが笑った。

「…なに!」

 レンくんはずっとニヤニヤしている。もうバカにして!こっちは男の人に免疫ないんだからね。キラキラ人種とは違うんだから。

「あ~ヤバいなあ。」

 ぼそっとつぶやいてさっきの極上の甘い微笑みを見せた。そして...

「えっ?」

 私の手をぎゅっと握ってごみ箱の方に。

 えっ?私、レンくんと手を繋いでる?まって。あ、でも手を繋いでるだけか。昔よく繋いだし。イヤイヤ…ダメでしょ。もう小学生じゃないし。何で?何で?脳内で激しくツッコみながらレンくんを見た。レンくんは横を見てて表情はわからない。でも、耳が少し赤くなってるような気がした。

 レンくんの手は大きくてあったかい。そう思ったら急にものすごくドキドキしてきた。胸がぎゅっと苦しいのに心地いい。そ、それに、何だか変な空気。

「ねぇ、もも。」
「…うぇっ?」

 うっ。変な声でちゃった。レンくんが急に話すから。

「俺、今度二人で出かけたい。」
「えっ?」

 ふ、ふたり?

「妹覚えてる?もうすぐ誕生日だから、こけ猫のグッツ見に行きたいんだけど。一緒に選んでくれる?」
「……」

 ああ。もう!これだから恋愛経験ない私はだめなんだ。また変に反応しちゃったよ。

「もも?」
「うん!萌ちゃんでしょ?もちろん覚えてるよ。なつかしいなあ。萌ちゃんの誕生日かあ。何歳になるの?」
「小6だよ。」
「わ~!あの小さかった萌ちゃんがそんなに大きくなったんだね。」
「そうだな。萌もこけ猫好きだからプレゼントしたくて。付き合ってくれる?」
「もちろん!私でよければ!萌ちゃんにも会いたいな。」

 ふふっ。かわいい小さい萌ちゃんの顔が浮かび自然と笑顔になる。

「よしっ!」

 隣で片手でガッツポーズをするレンくんに私は全然気づいてなかった。