「それで、何で落ち込んでたの?」

 またその質問。私そんなに落ち込んでるように見えたかな?

「たいしたことないよ。ただ私は相変わらず地味でかわいくないなぁと思っただけ。」
「何言ってるの?ももちゃんはこんなにかわいいのに。」

 智くんがやさしく頭をポンポンしてくれた。

「もう、やめてよ。いろんな女の子にそう言ってるの知ってるんだからね。」

 ほほを膨らまして智くんの手をどけた。

「へへ。女の子はみんなかわいいよ。もちろんももちゃんも。」
「はいはい。そうですか~。ありがとうございます。」
「もう、信じてないなぁ。」

 やわらかく微笑んで私を見つめる。そんな風に優しく微笑まれたらどんな子でもに好きになってしまいそう。私はもう付き合いが長いし、智くんの女癖には詳しいから慣れたもんだけど。

「私をかわいいって言ってくれるのは常連のおじいちゃん達だけだよ。それもありがたいけど。ふふ」
「ももちゃんはじいじ達のアイドルだからね。」

 かわいいって言えば...急に朝の出来事が思い出された。そういえばおじいちゃん達と智くん意外に初めてかわいいって言われたっけ。そう。レンくんに...

「ん?顔赤いよ。」

 智くんがするりと私の頬をなぞった。

「ちょっと。すぐ触るのやめてっていつも言ってるのに。」
「別にいいでしょ。かわいいももちゃんに触りたいもん。」
「……」

 無言でにらんだ。まったくこの人は。全然響かない。私じゃなかったら誤解してるよ。

「...で?自分が相変わらずだから落ち込んでたの?誰かに何か言われた?」
「…ふぅ」

 この人はひょうひょうとしてながら気が利くから困る。

「大したことないってば。ただ中学の同級生に久しぶりに大学で会ったんだけど、全然変わってないからすぐわかったって言われたの。」
「確かにももちゃん変わらないよね。俺も小学生の時に初めて会って、次が高校生になってからだったけど、すぐわかったもん。」
「うっ。やっぱり。」

 誰の目に見ても変わらない自分に少し悲しくなる。

「それはももちゃんが昔から変わらずかわいいいってことでしょ。俺、ももちゃんのそういう所すごく好きだよ。」
「なぐさめてくれてありがとう」

 羊羹スイーツを口に入れる。う~ん。おいしい。癒される。

「それに、その友達と小学校の時すごく仲良くしてたの。でも、いきなりそっけなくなって避けられちゃって。理由はわからないんだけど。それ以来中学校でも一回も話さなかったの。それなのに今日いきなり何もなかったようにすごくフレンドリーに話してきたからびっくりしちゃって。」
「へ~、そうなんだ。別に気にしなくていいんじゃない?また仲良くすれば。」

 智くんの適当な言い方に思わず笑みがこぼれる。

「ははっ。相変わらず適当だなぁ。智くんと話してると本当にどうでもよくなる。」
「ふふ。ありがとう。」
「褒めてないけど。でも、ありがとう。」

 智くんは俺は何もしてないけどって微笑みながらお茶を飲んだ。

「あっ。今何時?」
「6時半かな?」
「やば。約束時間忘れてた。じゃ、俺行くわ。ももちゃん、気を付けて帰ってね。」
「また女の子~?」

 智くんはべっと舌を出して店を慌てて出て行った。きっと約束忘れてたのは嘘。たまにこうやって私の大好きな和菓子とお茶で話を聞いてくれる。優しいお兄ちゃん。優しくてかっこいい彼だけど、女の子にだらしなくてちょっと残念。いやかなり残念。そんな智くんを思いくすりと出て行ったドアを見てひとり笑った。