大学最寄り駅で降りると、知った姿を見つけ小走りで追いかけた。

「柚葉ちゃん、おはよ。」
「あ。ももちゃん、おは...よ...蓮也も、おはよ。」
「おは。」

 レンくんが、軽く手を挙げた。柚葉ちゃんが私の後ろにいるレンくんを見て一瞬が顔が陰った。その表情を見て胸がチクりとした。そうだよね。彼氏が違う女の子いたら嫌だよね。必要以上に仲良くならないように気をつけなくちゃ。柚葉ちゃんに申し訳ないもん。

 なんとなく二人の一歩後ろを歩く。後ろから見てもお似合いの二人。背のバランスも最高。前を見なくても分かるあふれ出ているオーラ。

ふふっ。自然と笑みがこぼれた。

 でも、レンくんは私を友達だとしか思ってないだろうに。私って意識過剰。あはは。

「もも、何で後ろにいるんだ?隣、おいでよ」
「あ、うん。」

 私は笑顔を見せて柚葉ちゃんの隣に行った。

「ももちゃんと一緒だったの?」
「レンくんとは最寄り駅が同じなの。偶然会ったんだよ。ね。」
「ま、まぁ、そうだな。」

 何だかはっきりしないレンくん。柚葉ちゃんが心配するからちゃんとしてよ。内心、レンくんを責める。レンくんは誰とでもすぐ仲良くなれるし、距離感が近い。レンくんの長所でもあるけど彼女としては心配だよね。

「蓮也、今日2限からじゃなかった?早く来たんだね。」
「お、おう...そうだな。ちょっと早く来てレポートしようかと」
「...?」

 レンくんが私の方をちらりと見た。

「ふーん?」

 柚葉ちゃんが不機嫌そうにレンくんを見つめた。

「私、こっちだから。またね。」

 1限の授業の校舎はこっちだから二人とはここでお別れ。私は片手を軽く上げて手を振った。

「…っ、もも、今日、店休みだろ?何するの?」
「今日はね。しょうじいいちゃんと和菓子の勉強会があるの。えへへ。」

 楽しい時間が思い出されて自然と笑顔になる。毎週1回くらい不定期だけど、しょうじいいちゃんが和菓子を作るのを見せてもらう。カラフルな和菓子がしょうじいちゃんの手で生まれるのを見るのはまるで魔法を見てるみたい。見てるだけでも楽しいけれど、簡単な作業を手伝わせてくれることもある。おいしいお茶の入れ方も教えてくれたり。将来和菓子職人になりたい私にとって最高の勉強会なんだ。

「へぇ。嬉しそう。」

 レンくんが目を細めて優しく微笑む。うっ。そんな顔で私を見ないでほしい。

「ももが作ったお菓子食べたいな。」
「私はまだまだダメ。そのうちね。またお店に来てね。しょうじいちゃんのおいしいお菓子があるから。」

 ドキドキする胸を押さえながら笑顔で言った。

「柚葉ちゃんも。ぜひ一緒に来てね。」
「うん。ありがとう。」

 〈一緒に〉を強調して柚葉ちゃんを見ながら言った。柚葉ちゃんがふわっと極上の笑みを見せてくれた。よかった。レンくんと仲良くしたいけれど、柚葉ちゃんとも仲良くしたい。彼女に嫌な思いをさせたくない。もう昔のように自分だけの気持ちで気軽に行動できるような子供じゃないんだ。