18時。閉店した店内に3人の声だけが響く。テーブルにお菓子と緑茶が2つずつ置かれた。

「ももちゃん、お疲れ。さ、食べよ。」

 智くんが椅子を引いてくれた。こういうのがスマートにできるのが彼のすごいところ。

「しょうじいちゃん、片付け手伝いますよ。」

 まだ中で片付けをしている店長のしょうじいちゃんに声をかける。

「大丈夫だよ。ももちゃんは試食を頼むよ。」
「え?でも...片付け終わってから一緒に食べましょうよ。」

 ちらりとテーブルの上のお菓子を見る。緑と白と茶色が美しい。

「大丈夫大丈夫~気にしないで。それよりももちゃんの舌を頼りにしてるから。」
「ほら、早く座って?」

 智くんに促されて椅子に座った。

「それじゃあ、お先にいただきます!」

 試作品という抹茶の羊羹。羊羹の間にはチョコレートムースが挟まれている。上には生クリームがあしらわれている。緑と白と茶色の色が鮮やかだ。和と洋の合作。

「かわいい…」
「ふふっ。いい笑顔。」
「これ、智くんが言ってたのだよね。」
「そうそう。俺発案だよ。これなら俺でも食べられるかな。」

 智くんは和菓子屋の孫だけど、和菓子があまり好きではない。餡子が甘すぎるらしい。私に言わせると、チョコも生クリームもすごく甘いけど。和菓子大好きな私にとってはよくわからない。

 スプーンですくって口に入れた。少し硬めの抹茶羊羹としゃわしゃわするチョコムースとふわふわの生クリーム。いろいろな触感が口に広がる。

「わぁ。おいしぃ…」

 少し苦い抹茶味の羊羹と甘いチョコムースと生クリームの絶妙なバランス。うっとりと微笑んだ。

「やったー!ももちゃんの今日一番の笑顔いただきました。」

 智くんが笑顔でガッツポーズをした。

「すっごく、おいしい!正直しょうじいちゃんの和菓子に洋菓子を混ぜるのは嫌だなあって思ってたの。でも、悔しいけどすごくおいしい。」
「でしょ?当たりだよね。これで和菓子苦手な若い子たちももっと来るよね。」

 今でも智くん目当ての若い女の子たちで店は賑わっているけど、そうじゃない純粋なお客さんがもっと来てほしいって思っているようだ。そんなじいちゃん思いな智くんにほっこりする。

「これ、商品化するの?」
「俺はそうしたいって思うけどね。じいちゃん次第かな。じいちゃん洋菓子には疎いから。」
「絶対人気出ると思う。」
「でしょ、でしょ。ももちゃんからも言ってやって。俺よりももちゃんの方が信頼されてるからね。」
「ふふっ。何言ってるの。それは智くんの生活態度の問題じゃないの?」
「え~?何言ってるの?」

 智くんはイタズラが見つかったみたいな顔で笑う。智くんは王子様みたいな整った容姿に優しそうな笑顔。誰が見てもかっこいいって言うと思う。でも、明るい茶髪に耳にはピアス。お店の制服である落ち着いた小豆色の甚平とエプロンを着崩している。和菓子屋には似つかわしくないオシャレさ。とにかくチャラい。しょっちゅう違う女の子と遊んでるし。本当だったらこんな地味な私と関わりがないんだろうけど、小学校からの付き合いだから、こうやって仲良くできてる。こんな見た目だけど本当は優しくてじいちゃん思いなのを知ってる。女の子にだらしないのが玉にキズだけど。