「何なのよ!あの人!ムカつく!」

 飄々とした顔が浮かび涙で視界がゆがむ。

「もうわかってんだろ。諦めろよ。」
「なによ。」

 いつの間にか隣にいた諒太をにらんだ。

「蓮也のこと。」
「……」

 涙をこぼしたくなくて上を向いた。今日に限ってすっごくきれいな月!ああ。月さえも腹が立つ!

「嫌!絶対諦めない!」
「はぁ~」

 諒太がわざとらしく大きな溜息をついた。

「お前だって気づいてるくせに。もう無理だって。ももには勝てない」

 諒太が遠慮なしに私の心をえぐる。

「うるさいな。私がももちゃんに負けるわけないじゃない。あんな子なんかに」
「ホントにそう思ってる?」

 諒太の鋭い目を見てられなくて目を逸らした。

「あの子、すっごくいい子だろ。」
「……」
「一見おとなしく地味そうに見えるけどそうじゃない。思ったより明るいし、人の事すごく見てる。一人ポツンとしてたらさりげなく声かけて輪の中に連れて行くんだ。そういうのがすごくうまい。」
「……」
「それに話す時、しっかり目を見てる。そして一番は彼女の雰囲気だな。柔らかい笑顔と包み込むような雰囲気。心を許してしまう。」
「なによ。よくしゃべるのね。アンタもももちゃんに惚れたっての?」

 いつもよりよくしゃべる諒太に腹が立つ。そんなことわかってるよ。なんだかんだいつも話題の中心に彼女はいた。話が途切れたり雰囲気が悪くなったときはももちゃんが自然と場を和ませてた。それも狙ってるわけじゃない。きっと彼女が持つ穏やかな雰囲気のお陰だ。わかってるから余計に悔しいんじゃない。

「はぁ~あ。」

 諒太がまた大きなため息をついて私をじっと見つめてきた。

「なに。」
「どーだか。」

 ぶっきらぼうに言って前を向いてしまった。なによ。

「蓮也がももを好きなんだからしょうがないだろ。今までとは違う。」
「……」
「諦めろ。」

 私は唇を噛んだ。わかってる。わかってるよ。頭ではわかってるけど、気持ちがついてこないのよ。ももちゃんといる時の蓮也は全然違う。全身でももちゃんが好きだと表現してる。誰が見てもわかるくらい。

「その方がお前のためだよ…」

 心なしか優しくなった諒太の声に、我慢していた涙がこぼれた。

「…ふぐっ…」

 声が漏れる。諒太には泣いてるところ見られたくないのに。苦しいよ。蓮也…何で私のこと好きになってくれないの。私はずっとずっと蓮也だけ見てるのに。諦めれるならその方法を教えてほしいよ。

 下を向く私に諒太が優しく頭を撫でてくれた。