「よし!ももちゃんできたよー?友達みたいだし、ももちゃん持ってく?」
「お茶もできたぞ。」
「はーい!私行きます!」

 小さなお盆に乗ったお茶とお菓子たちを見てももちゃんが微笑む。

「智くん、めちゃおいしそう!さすが!」
「ふふっ!それほどでも~?」
「よし!行って来まーす」

 お菓子とお茶が乗った小さな丸いお盆を両手に持ってももちゃんが席に向かう。俺はももちゃんについて店内に出た。お店の入り口で横目で客の様子を伺う。

「…ん。うま。」
「ホント、おいしぃ。」

 抹茶羊羹ケーキを口にして二人が話す。二人の反応を見て小さくガッツポーズをした。

「本当?よかった。」

 ももちゃんが微笑む。それを見た男が優しく微笑む。空気が甘くなった。その後男の手がももちゃんの頬に伸びた。

「…え?」
「…あ…え?ああ。まつ毛がついてた。」
「あ。ありがとう。」

 ももちゃんは一瞬驚いたが、いつものように穏やかに微笑んだ。

 は。何だアイツ?

 さっきのあの男に感じた違和感が何か分かった。ももちゃんに送る視線がおかしい。友達のソレとは違うんだ。目の前に彼女がいるのに。本当に愛しそうにももちゃんを見る。すごく違和感。

「そういえばさっき上田先生見たよね。」

 不自然な空気を一掃するように美女が話題を変えた。

「あ。そうそう。上田先生。覚えてる?中学の時の。若くて人気あったじゃん。」
「上田先生?うん!わかる。」
「さっき駅で見かけたんだ。奥さんと子供と一緒だったよ。」
「へ~!先生結婚したんだね。子供もいるなんて。きっとかわいいだろうな。」
「先生も30代になっただろうからな。そりゃ結婚もするか。」

 ふ~ん。中学の同級生か?なぜか会話の内容が気になり左耳だけはそっちに集中してしまう。

「そうだねぇ。もう5年以上経ってるんだもんね。私町で会って先生って分かるかな。ふふっ」
「ももは変わってないからすぐわかるだろうけどな。」
「またその話?変わってなくてすみませんねぇ。」
「はは。褒めてんの。それにすっごく久しぶりに会ったけど、そんな気しないよな。つい昨日が小学校の頃みたいだ。」

 男が極上の笑みを返す。男の俺でもほれぼれするような、裏表のない澄んだ笑み。その微笑みに俺はイラっとした。自分とは全然違う。

「だね。レンくん、明るくフレンドリーなところ全然変わってない。柚葉ちゃんも相変わらずすごくかわいいし。」
「この店も小学生以来だけど、変わらず落ち着くいい感じ。」

 その時はっとした。

 小学校?

 最近久しぶりに会った中学の同級生?しかも小学校が同じ?これって以前ももちゃんが話してたことじゃ?

 は?友達って男かよ。

 隣にいる美女よりも明らかに男の方が仲がよさそうだ。さっきから男がやたらとしゃべっている。すごく気分が悪い。ももちゃんは今まで男の影が全くなかった。男友達なんていたんだろうか。そのももちゃんが男と楽しそうに話している。なぜか無償にイライラする。

 しかも昔ウチに来たことあるって?男の顔を遠くからガン見した。その時、脳裏にフッと幼い昔の顔が浮かぶ。え?アイツもしかしてあの時の?