某有名大学。
 後期第一回目の選択教養の授業。
 
 食物栄養学科に通う2年生、山本桃花(やまもと ももか)は「韓国語入門」と書いてあるテキストをペラペラめくっていた。1限の授業開始15分前ということもありまだ学生たちは少ない。

「あれ?ももだよね?」

 急によく通る甘い声が聞こえて桃花は声の方を向いた。そこには背の高い男が。自然と見上げる形になる。ツヤのある黒髪を横に流し人懐っこい笑みを浮かべている。

「…え?レンくん?」

 彼女の目が大きく開けられた。

「うん!ホント久しぶり!あ…誰か来る?ここ座っていい?」
「う...うん。どうぞ」

 少し戸惑う桃花を気にせず、朝日蓮也(あさひれんや)はにこにこ笑いながら隣に座った。

「柚葉もここに座れよ。」

 蓮也の隣には超絶美女の箕輪柚葉(みのわゆずは)が。ばっちりメイクで甘い匂いが漂う。他の学生たちがチラチラと彼女を見ていた。

「山本さん、久しぶり。私のこと分かる?初めて話すかも。」
「箕輪さんでしょ?もちろん分かるよ。うちらの学年で箕輪さん知らない人いないよ。」

 桃花は久しぶりに会った中学の同級生に優しく微笑む。箕輪さんは相変わらずかわいいし、何かいい匂いがする。桃花はほうっと柚葉に見惚れた。

「ももは全然変わってないな?すぐわかったよ。」
「うっ。よく言われるよ。残念ながら...ふふっ」
「残念じゃないよ。変わってなくてかわいいってこと。安心した。」
「か?…かわ…?」

 予想外の言葉に桃花は真っ赤になって顔を逸らした。

 気まずくなってちらりと横を伺う。レンくんは変わったよ。背ももっと伸びたし、男っぽくなって、ますますかっこよくなった。桃花はドキドキする胸を押さえた。それと同時に何だか悲しくなる。相変わらずさえない自分の隣にはお似合いの美男美女カップル。

「桃花!はあっ。。はあ...ここにいた」
「あ、ほのちゃん。もう、遅いよ~」

 桃花の同学科の友達木下穂香(きのした ほのか)が息を切らして桃花の隣に座った。

「ああ、ヤバかった。寝坊して...遅刻するかと思った。」
「ふふ。ほのちゃんは予定通りだね。」
「なんだと?今学期こそはと思ったけど、もう初日からこれよ。はは。ってか、となり誰よ?」

 他に席はたくさんあるのになぜかぴったりと隣に座る二人を見た。

「俺は朝日蓮也。ももとは小学校と中学校が同じなんだ。こっちは箕輪柚葉。ももとは中学が一緒だな。よろしくね。」
「あ、ああ...私は桃花とは同じ食物栄養学科。木下穂香って言います。よろしくね。」

 穂香は蓮也に微笑まれ頬を染めて答えた。桃花は蓮也の「小学校」という言葉に昔の思い出が蘇り、胸がツキンと痛んだ。

「ね、ねぇ。隣の二人すごいんだけど?超美男美女!桃花にこんな友達がいたなんて…!」

 興奮した様子で桃花を肘でつんつんしながら穂香は小声で話す。

「私もさっきすごく久しぶりに会ったの。中学から有名なカップルだったよ。」

 その時、担当教授が教室に入ってきて、会話が中断された。