「あら、消毒液ならここにあるわよ?」

 そう言ってポケットから救急セットを取り出したのは、レーヴの先輩であるアーニャである。

 彼女は、レーヴよりやや年上の息子を五人も育て上げた肝っ玉母さんだ。レーヴの母と同じく、夫が残念で苦労してきたそうだが、そうとは思えないはつらつとした女性である。

 ふっくらとした顔と女性にしてはたくましい体が、頼り甲斐のある空気を出していた。

 アーニャは、娘を授かれなかったことが残念だったらしく、王都で一人暮らしをするレーヴのことを娘のようにかわいがり、何くれとなく世話をしてくれる。
 レーヴにとってアーニャは、第二の母のような存在なのだ。

(いけない……今は仕事中なんだった)

 ペタンペタンと郵便物に消印を押すだけの作業は単調で、つい考え事をしてしまう。
 心配そうに見つめてくる二人にごまかし笑いを浮かべ、レーヴは「大丈夫です」と答えた。