「僕と結婚したら将来は安泰だよ?」

 冗談めかしてクスクス笑うデュークを、レーヴが「もう」と小突く。
 痛いなぁと笑う彼は、無邪気でかわいらしい。
 先ほどの紳士的な態度とは打って変わって、子どものようにはしゃぐデュークに気が抜ける。
 大人な彼にはドキドキさせられるけれど、こんな風に気兼ねなく話せる彼は好きだなぁと思う。

「オロバスというのは、馬の姿をした悪魔の名前なんだ。獣人から人になった者はみな、悪魔の名前を家名にするらしい」

「私、獣人に会うのはあなたが初めてなのだけれど……獣人から人へ変化した人ってけっこういるものなの?」

「昔は少なかったみたいだけれど、魔獣を保護する風潮になってからは少しずつ増えているね。僕が知っている元獣人は、フラウロス、マルコシアス、モラクス、ラウム……」

 次々に挙げられる名前はどれもレーヴが知る名前ばかりだ。
 彼女の記憶違いでなければ、王族の剣術指南役や近衛騎士隊の隊長の名前がそんな名前だったはずである。