しかし、ずんずん向かってくる人を無視するのは難しい。
 だって彼は近衛騎士なのだ。王都の乙女憧れの騎士様を無視したとあっては、レーヴのような者に未来はない。女の嫉妬は途方もなく恐ろしいのである。

「珍しいじゃないか、おまえがこんなところへ来るなんて」

(こんなところって……ほぼ毎日いますけどね)

 周囲を飛び回る鬱陶しいコバエを見るような目をしながら、レーヴは仕方なく止まった。
 つないでいた手を解いたらデュークが悲しい顔をしたが、ジョージに見られたら最後、不愉快になるのは確実だから仕方がない。

「ちょっと横切っただけ。来たかったわけじゃないわ」

「そうか? 遠慮しなくてもいいのだぞ。今日は俺がいるからな。特別に、仲間に入れてやるよ」

「ごめんなさい。私、今、一人じゃないから」

 レーヴの言葉に、ジョージが「ん?」と声を漏らす。
 誰もがうっとりと魅入ってしまうような美貌の男が隣にいたというのに、ジョージはそこで初めて存在を認識したらしかった。