(これは……離れがたい)

 彼はまるで、悪い薬みたいだ。
 一度手を出したら、夢中になってしまう。

「もっと一緒にいたい。また、手をつなぎたい」

 レーヴより大きくて少しだけ体温の高い手に優しく握られると、心臓が早鐘を打って、心の奥の方が凪いでいく。

 こんな経験は初めてだった。
 王都の乙女が一度は憧れる【黄薔薇の騎士】様であるジョージと長年一緒にいるが、ときめいたことも、安心感を得たこともない。

 幼い頃は手をつないだこともあった。だけどその度に、いたずらという名のいじめを受けていたので、レーヴとしては忘れ去りたい過去なのである。

 水たまりに突き飛ばされて、彼の前で着替えさせられた屈辱は、いくつになっても忌まわしい。できることなら、大枚叩いてでも忘却魔術で消し去りたいくらいである。