「やっと?」

「いや、なんでもないよ。気にするな」

 不思議そうに見上げてくるレーヴの肩をポンとたたいて、ネッケローブは工房へ戻る。
 工房の入り口で手を洗いながら、彼は思案した。さて、あの輝かんばかりの肌はどこで見たんだっけ、と。

 再び作業に戻りながらガラス越しに店内を見ると、レーヴは熱心にパンを眺めていた。
 彼女のお気に入りはサンドイッチだ。今日はバゲットのサンドイッチをまだ用意できていない。ベーグルサンドの具はクリームチーズとスモークサーモン、クロワッサンの具はハムと葉野菜だ。

「今日はどうするんだ?」

「んー……そうだなぁ……このベーグルのサンドと……オレンジのデニッシュにしよう」

 レジに立ち、トレーとトングを受け取る。
 手早くパンを包みながら、レジを打った。

「ねぇ、ネッケローブさん。にんじんのパンって、作ったことある?」

「にんじんのパン? 作ったことはないが……思いつくのは、にんじんを生地に練り込んだのとか、クリームに混ぜて入れたりとか、だな」

「なるほど。生地ににんじんを練り込んで、さらにクリームにもにんじんを混ぜて……見た目もにんじんっぽくしたら喜ぶかなぁ」