受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される

 レーヴの目が、オレンジのデニッシュを追う。
 だが、ネッケローブは見抜いていた。彼女はデニッシュを見ていたわけではない。恥ずかしくて、ネッケローブと目を合わせられなかっただけなのだ、と。

「えっと……おいしいって言って、全部食べてくれたわ」

「へぇ」

 思わず、ニヤける。
 唇がクロワッサンのような三日月の形になっていくのを、ネッケローブは止められなかった。

「良かったじゃないか」

 ネッケローブはクリームパンのようなふくふくした手で、レーヴの頭を撫でた。
 そのしぐさは、兄のような優しさに満ちている。
 レーヴもわかっているのだろう。恥ずかしげに俯きながらも、「うん」と言う声は甘い響きが混じっていた。

 やっとか、とネッケローブは思う。
 浮いた話が一切ないので、恋愛に興味がない子なのかと心配していたのだが、杞憂だったようだ。
 彼女は彼女で、ネッケローブが知らない世界を作っている。
 それが嬉しいと思う反面、ちょっとだけ寂しいと思うのは、彼女のことを妹のように思っているからだろう。
 どこか放っておけないんだよな、とネッケローブはポヨンとした顎を撫でた。