「おはよう、ネッケローブさん」

「おや、レーヴじゃないか。おはよう」

　黄色と紺のチェックシャツに、オーバーオールのようなデザインのエプロンを引っ掛けた、ややぽっちゃりした体格の彼はカック・ネッケローブと言う。
　彼は、このパン工房の主人で、レーヴのパン作りの師匠でもある。

　ここのパンに惚れ込んだレーヴが通い続けていたところ、ある日突然、彼の方から「パンを作ってみる気はない？」と申し出があったのだ。
　思いがけない提案に驚きはしたが、レーヴはすぐに「お願いします！」と答えた。というのも、彼女は王都中のパン屋を開拓し尽くしていて、そろそろ王都郊外へ足を伸ばそうとしていたからだ。

　それから一年ほど休日のたびにパンの作り方を教えてもらった。
　おかげでレーヴの腕は、パン職人並みである。

「今日はやけにご機嫌じゃないか。つい数日前は面倒なことを押しつけられたって怒りながらやけ食い用のパンを大量購入していったっていうのに」

「そうなんですよ！　面倒だと思っていたんですけど、思っていたより面倒じゃなくなったというか」