足取り軽く、レーヴは歩く。
 ロスティの夏は短いが、湿度が低く過ごしやすい。

 気分が良いのは、季節のせい。
 レーヴは今にも駆け出したくなるような気持ちをそう結論づけて、軽やかに歩みを進めた。

 ルンルンと鼻歌でも歌いそうなくらい上機嫌にやって来たのは、なじみのパン屋である。

 クネクネとした癖のある字で『ネッケローブのパン工房』と焼き付けたプレートが掛かる木製の扉を開くと、カランコロンとカウベルのような軽快な鈴の音が店内に響く。

 レーヴは入ってすぐのところに置いてあったトングとトレーを手に取ると、ぐるりと店内を見回した。

 店内のそこかしこに市場に並ぶ移動馬車の小型版のような台が置かれ、台の上にはたくさんのパンが行儀良く並んでいる。

 店内をひととおり眺め、レーヴは続いて店の奥を見た。
 ガラスを隔てた向こう側は工房になっていて、赤い煉瓦の大きな石窯の前で小太りの男がせっせと作業している。