それからしばらく、二人の間には甘くて苦い空気が漂っていた。
 ただ黙って、サンドイッチを食べ続ける。
 レーヴがこれで良いのかしら、と不安になった時、バスケットから手を引っ込めたデュークが「あ……」と残念そうな声を漏らした。

「ごめん」

「なにが?」

「にんじんのサンドイッチ、僕一人で食べちゃった」

 シュンと肩を落とすデュークは、叱られた時の妹を思い出させる。
 レーヴはつい、妹にするような感覚でデュークの頭を撫でた。

「ほら。他の種類はまだ残っているから。しょんぼりしないの」

 レーヴはバスケットからハムサンドを取ると、デュークに差し出した。
 彼は無表情でそれをじっと見つめたかと思えば、次の瞬間には獲物を見つけた獣のような目をしてクッと笑う。

「え」

 かぷ、と。
 レーヴの指に、デュークの歯が当たる。

(あ、そんなに痛くないや)

 停止しかけた思考が、のんきなことを考える。
 頭のどこかで「冷静になれ」「おい、気づけ!」と警鐘が鳴ったが、もう遅い。

 デュークはそのままサンドイッチを食べきり、彼女の指先についていたパン屑まで舐めとるという偉業──彼女からしてみたら破廉恥極まりないこと──を成し遂げたのだった。