「キュゥゥ」とイルカの鳴き声のようなかわいらしい音がして、レーヴは我に返った。
 妄想世界から帰還した彼女が「おや?」と周囲を見回せば、デュークが恥ずかしそうにごまかし笑いを浮かべながらおなかをさすっていた。
 どうやら、さきほどのかわいらしい鳴き声は彼のおなかの音だったらしい。

「そろそろお昼ごはんにしましょうか」

「そうしてくれるとありがたいな」

 バスケットから大判のブランケットを取り出すと、デュークが手を出してきた。
 レーヴは今度こそ失敗しないように、その手へブランケットを渡す。
 デュークも朝の失敗を思い出したのだろう。やや苦い顔をして、ブランケットを敷いていた。

 芝生の上に広げたブランケットに二人で腰を下ろし、レーヴはバスケットを開いた。
 今日のメニューはサンドイッチだ。オーソドックスなハムサンドにたまごサンド、トマトとチーズとハーブのサンドイッチも外せない。クララベル夫妻から「キャロットラペのサンドイッチはたくさん入れてちょうだい」と指示されていたため、気づけばバスケットの中に軽く五人前は詰めていた。

 レーヴがバスケットを差し出すと、デュークが興味津々といった様子で中を見た。
 オレンジ色が挟まれたサンドイッチを迷わず手にとって、スンスンと匂いを嗅ぐ。それから、ぱくりと一口。
 初めて食べるようなしぐさに、見守るレーヴも緊張が伝染しそう。ドキドキと、まるでテスト結果を待つような気持ちでレーヴが見守る中、デュークが最初の一口をごくんと飲み込んだ。