「……何か言いたいことが、あるの?」

「その……手を……つないでも良いですか?」

 美形が恥ずかしそうに手を差し出すという構図は、破壊力があった。
 レーヴがキョトンとした顔で手を見つめていると、デュークは「あ、そうか」と勝手に納得して、ズボンで手のひらを拭く始末。
 まるで学生時代に読んだ少女向けの恋愛小説の一節のような出来事に、レーヴは心の中で叫んだ。

(あまずっぺぇぇぇぇ!)

 少々乱暴な言葉遣いだが、これが本来のレーヴである。
 彼女は田舎生まれの田舎育ち。彼女の母の一人称は「おれ」であり、そんな母に育てられた彼女もまた、淑女とは言い難い。

「駄目、ですか?」

 背の高いデュークはレーヴを見下ろしているというのに、なんだか上目遣いでおねだりされているような錯覚を覚える。
 堕天使のような美形がずぶ濡れの子犬のような目で見つめてくるのは反則じゃないか、とレーヴは思った。