(ロスティの女を舐めんな! もしも全世界怒らせたらいけないランキングがあったら、間違いなく一位か二位に輝くおっかない女なんだからな!)

 こんなところで油を売っている暇などない。不埒者の対処をする時間さえ惜しいのだ。
 絡まれるたび、デュークが後ろ脚で男を蹴りたそうにしているのを見て、「よし、今だ、デューク蹴って!」と何度思ったことか。
 しかし、レーヴは知らない。デュークがゆっくり走る理由は、人を傷つけないためということもあるが、それだけではなかった。

 レーヴが自分のために戦っている。それが、彼には嬉しくて仕方がない。
 軍人であるレーヴが戦うことにあまり躊躇いがないことは知っている。
 だが、国のためではなくデュークのためにキレているということが、彼の恋心を燃え上がらせるのだ。レーヴがそれだけ自分に執着しているような気がして、紳士らしくないと思いながらも歩みが遅くなる。

 男たちへ向ける冴え冴えとした視線は、デュークをゾクゾクさせた。それを真っ向から浴びる男たちが、殺したいほど羨ましい。
 結局、デュークの歩みがそれ以上早くなることはなかった。