「レーヴさん。こっちは夫のウォーレンよ。昨日、会っているわよね?」

「ええ、そう、ですね……?」

 会っている。というか、誘拐された。
 素直に頷くには微妙な出会いすぎて、レーヴは歯切れ悪く答えるしかない。
 そんな彼女に今なお熱視線を送り続けていた青年は、眉間に皺を寄せてウォーレンを睨んだ。
 噛み付かんばかりに威嚇され、ウォーレンはマリーへ助けを求める。

「それでね? こちらの彼が、昨日お話しした、獣人になった子よ。名前は、デューク」

 改めて紹介され、青年が居住まいを正す。
 険しい顔は一瞬で蕩けたように甘く緩み、その目は「愛しい」「好き」とわかりやすく告げてくる。

(こんな熱視線、向けるに値しないんですけど!)

 だってレーヴときたら、相変わらず化粧はしないし、髪もただのポニーテール。服装もリネンの生成りワンピースといった飾り気のないもので、非常に残念なありさまだった。
 しかし、そんな残念さも恋する獣人にはあばたもえくぼ。「栗毛の牝馬、かわいすぎる!」になる。