シリアスな雰囲気から一転してコミカルな雰囲気が漂いだしたことに、一同は「いやいやいや、今それどころじゃないんだって」と内心ツッコミを入れた。
 マリーはキョトンとしたまま、ラウム親子は互いの顔を見合わせ、誰もがどうしたものかと逡巡する中、聞こえてきたのは馬のひづめの音である。

 ──ドット、ドット、ドット!

 聞こえてきた馬のいななきに、ロディオンは「うそだろう」と呆然とつぶやいた。

「獣人とはかくもチョロい生き物なのか」

 わが身を振り返りながらロディオンが言った時、らせん階段を駆け下りて、踊り場に立つ生き物がいた。
 かつて青毛の駑馬と呼ばれた漆黒の毛を持つ美しい馬──デュークが、レーヴの呼びかけに応えるようにそこにいたのだ。