「どうしてお逃げになるのです? 儀式ってどんなものなのですか? そこまで言ったのですから、最後まで教えてくださいませ。さぁさぁさぁ!」

 ズズイと迫ってくるマリーに、ロディオンだけでなくエカチェリーナまで引いている。二人して正座のまま後ろへ逃げようと、わずかに体を捻ったその時だった。

 ──バッターンッ!

 彼らの背後にあった正面玄関の豪奢な両開きの扉が、吹っ飛びそうな勢いで開け放たれる。
 その場にいた誰もがポカンと口を開けて見る中、ピーウィッ! と指笛の音がエントランスに響いた。

「迎えに来たよ、デューク!」

 元気いっぱいの声で叫んだのは、栗毛の牝馬──レーヴ・グリペンだ。
 デュークの状態などまるで知らない彼女は、まるで子供が遊びに誘いにきたかのようである。