デュークを害した者がいる。
 それを聞いた瞬間、マリーの顔から表情が抜け落ちた。

 隠れていた手すりの影からスッと立つと、ヒールの音を高らかに鳴らしながら一歩一歩階段を降りていく。威風堂々とした姿からは、この城を任された女城主の風格がにじみ出ているようだ。

「そこの、あなた……どのような経緯でデュークを害したのか、詳しくお話しくださいませ」

 凍えるような視線で、マリーはエントランスの床に這いつくばる男女を見下ろした。
 顔を上げた男が、マリーを見て驚いたように目を見開く。だがそれも一瞬のことで、男はすぐに表情を引き締めると、彼女へ言った。

「デュークは今、大変な誤解をしている。私の娘……エカチェリーナ・ラウムのせいで」

「お父様が言ったのよ! 好きな人には尽くすものだと!」