受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される

 階下をのぞくと、エントランスの中央で一人の男性が土下座していた。
 身なりの良さからいって、男の身分は高そうだ。その隣で、長い黒髪を持つ華奢な体躯の女性が、頭を押さえつけられる形で土下座を強要させられている。

「この声、どこかで……?」

 だいぶ前に聞いたことがあったと思ったのだが、声だけでは思い出せない。
 マリーが思い出せないもどかしさにうなっていると、エントランスの吹き抜けに男の声が朗々と響いた。

「私の娘は取り返しのつかないことをした」

 よく通る声だ。
 まるで舞台で俳優がせりふを言っているように、芝居がかって聞こえる。

「魔馬デュークに、私の娘はとんでもないことをした」