「魔獣の被害を受けたから魔の森を焼き払うなんて……」

 隣国のディンビエは、新しい国だ。歴史も浅く、魔獣のこともよく知られていない。
 とはいえ、ロスティが魔獣を保護するようになったのだって、ここ百年ほどのことなのである。領土拡大に精を出していたディンビエが獣人について知らなくても、仕方がないことなのかもしれない。

 今回、魔の森にほど近い村で、老婆が魔獣に襲われた。遺体は見つからず、丸呑みされたと言われている。
 それを理由にディンビエは魔の森を焼き払うことにしたようだ。マリーからしてみれば浅慮としか言いようがないが、おそらくさまざまな思惑が絡んだ結果なのだろう。

「ディンビエは小さな国だから、ロスティの領土である魔の森を奪ってでも大きくしたいのね。森から逃げた魔獣が近くの村々を襲うとは考えられないのかしら」