青年の黒髪は、この国の男性としては長めだ。ロスティでは訓練学校時代の名残で短髪が多いので、珍しい。
 もしかしたら人の耳がないことを隠すために伸ばしているのかもしれない、とレーヴは推測する。
 スッと通った鼻梁も薄い唇も、歪みなく左右対称で美術品のよう。ジェットのような黒い瞳は、火をつけたら燃えそうなくらい熱い視線をレーヴへ向けてくる。

 レーヴは、いたたまれずに脚立の上で体を小さくしながら、青年の顔から視線を逸らした。
 チラッと見ただけなのに、美辞麗句がポンポン出てくる。決して多弁とは言えないレーヴでさえ、それなのだ。文句なしの美形だと言えるだろう。

 顔を見続ける勇気がなかったレーヴが次に観察したのは、彼の頭上だった。
 顔を見ているとその存在が霞んでしまうが、頭の上にはピンと立った耳がある。犬や猫とも違う、だけどレーヴには見慣れた形だ。

(大きすぎず小さすぎず、ちょうど良い大きさね)