「腹は減らないのだろうか?」

「大丈夫よ」

 きゅるり、とかわいそうな声で腹の虫が鳴いているウォーレンのおなかを、マリーはぺチリとたたいた。

 鍛え抜かれた彼の腹にダメージはなかったが、ウォーレンはあえてひょうきんに痛がってみせる。それが彼の精一杯の慰めだと知っているから、マリーは「仕方のない人」と苦く笑って許した。

「獣人は数日飲み食いをしなくても死んだりしないわ。彼らが死ぬ時は、恋する相手が死んだ時か、恋する相手に想いを返してもらえなかった時だけ。だから、おなかの心配はしなくて良いの。とはいえ、今の状況は……まずいわね」

 マリーの研究員としての直感が告げている。これはもしや、消滅へのカウントダウンなのでは? と。

 生えている木々は不気味だし、部屋の奥から漂ってくる空気は淀んでいる。
 あれほどレーヴに会いたいと言っていたデュークが引きこもっていることからして、危険だと思わざるを得なかった。