「魔の森の木は魔の森固有のものだというけれど……もしや、魔獣たちが生やしているのかしら?」

「どうだろうな」

 のんびりと会話をしている二人だが、その顔は険しい。
 なにせ、このプチ魔の森とも言える森の奥にいるのは、夫妻が預かっている獣人なのだ。

 国から依頼されていた能力検査を終え、彼は意気揚々と愛しの彼女のもとへ行ったはずだった。
 夫妻としても「さぁ、ここからは恋愛一色でいきましょう!」と慣れない恋愛相談も受ける気満々でいたのだが、なぜだか彼は引きこもってしまったのだ。

 声をかけても、返答すらない。困っている間に木々は増え続け、今や部屋に収まりきらず廊下にまで蔦を伸ばし始めている。
 ずるずると伸びていく不気味な蔦は、まるで誰かを部屋に引き摺り込もうとしているようにも見えて、近づくことも憚られた。