魔獣保護団体が有する、古城の一角。
 最近保護された獣人のデュークに用意した部屋の前で、クララベル夫妻は困惑の表情を浮かべていた。

 もともとは城主子息のために作られたというこの部屋は、それなりの広さがある。真っ白な壁にはところどころ金の装飾が施され、床には毛足の長いフカフカとした深緑色の絨毯が敷かれていた。備え付けの家具も、当時のものよりは劣るが上質のものである。

「ここはどこだったのかしらねぇ……」

 マリーはとぼけているわけではない。
 実際にそう言ってしまうくらい、目の前の光景は異常だった。

 ここは城内だが、まるで魔の森を切り取って持ってきたみたいなありさまだった。おどろおどろしい魔の森独特の木が細い枝をあちこちに伸ばし、たくさんの葉を生やしている。
 元城主子息の部屋は、今やお化けのような木でできた、牢獄になっていた。