「本当に、間が悪いなぁ!」

 一体レーヴがなにをしたのだというのだろう。
 熱心な信者ではないけれど、レーヴは神を恨みたくなった。

「こんちくしょう!」

 レーヴは王都の淑女が到底口にしないような口汚い言葉を吐き出しながら、じだんだを踏む。
 足が痛くなるまでひとしきり踏んで、レーヴは深呼吸した。のぼせていた頭が、冷静さを取り戻していく。

「ジョージを置いていくことに躊躇っている場合じゃない……ジョージだってきっと、覚悟の上であの部屋へ入ったはず……」

 レーヴもジョージも軍人だ。
 国の命令は絶対で、時に命さえ張る必要がある。

 レーヴは扉に向かって最敬礼をすると、踵を返して走り出した。
 スッと伸びた彼女の背は凛として美しく、なびく髪は勇ましい駿馬の尾のようだった。