レーヴは不本意な気持ちを隠そうともしないで言った。

「何をしているの、エカチェリーナ」

 レーヴは彼女を知っていた。ものすごく、忘れたいけれど。

 彼女の名前は、エカチェリーナ・ラウム。
 王族の剣術指南役を務める父を持ち、かつては【傾国の美女】と恐れられ諜報部隊のトップに君臨していた母を持つ、訓練時代の同級生である。

 その美貌と優秀さから王太子の婚約者候補に挙がったこともあったそうだが、私情でお断りしたのだとか。

 エカチェリーナのことは、うわさで聞く程度だ。

 特別親しくないが、動向を知っておかないと困る相手でもある。
 なぜなら、エカチェリーナはとても厄介な人物だからだ。