「……は」

 レーヴは、詰めていた息を吐いた。緊張で強張っていたレーヴの体が、ぐらりと傾ぐ。
 走り寄ったデュークが、大事そうに彼女を掻き抱いた。

 レーヴの体に出血はなかった。かすり傷も。
 デュークが放ったナイフは、レーヴを守るように突如生えてきた木の幹に刺さっている。
 レーヴが聞いた蛇が這う音は、彼女の足元にあった小枝が成長する音だったらしい。

(これは……デュークの、魔術?)

「レーヴ、大丈夫か?」

 青ざめ、今にも死にそうな顔をして覗き込んでくるデュークに、レーヴは「はは」と乾いた笑みを返した。正直、笑えているかも怪しい。

「大丈夫……なのかなぁ?」

 レーヴは自分でもよくわからなかった。
 とにかく痛いほど心臓がバクバクしていて、頭は考えることを放棄している。