アーニャは目にも止まらぬ早業で、消印を押していく。
 見事な手さばきに見惚れていると、彼女は突如不穏な声で笑い出した。

「ふっふっふっ……レーヴ……みーたーわーよー?」

 スッッターンッッ!

 力強く最後の一通に消印を押した彼女は、その勢いのまま立ち上がる。
 まるでお化けでも見たようなせりふに、レーヴは「見たって、何を?」と恐々尋ねた。

「決まっているじゃない! 悪の道へ引きずり込まれたってむしろ本望だって思えるほどの美貌を持つ、デュークくんよ! いやぁ、眼福だったわぁ」

 頰に手を当て、腰をくねらせながら笑うアーニャは、心なしか若返って見えるようだった。

 ふっくらした頰はほんのり上気し、まるで憧れの人に声をかけられたうら若き乙女のように興奮している。虚空を見る目は、キラキラと輝いているようだ。