「あらあら、おとぎ話みたいな話ね? 意地悪な継母と優しい魔法使いも出てくるのかしら」

「茶化すな、アーニャ」

 ジョシュアが不機嫌にアーニャをたしなめる。

 彼は口を一文字に引き結び、腕組みをしながらレーヴを睨みつけていた。刃のように研ぎ澄まされた視線は恐ろしいが、レーヴは不思議と恐怖を感じない。

 おそらく、レーヴというより彼女が語る男に対して睨んでいるつもりだからだろう。
 アーニャはひょいと肩を竦めると、先を促すようにレーヴに目配せしてきた。

「継母も魔法使いも、今のところ会ったことはありません。代わりに魔獣保護団体というところへ呼び出されまして、そこでマリーという研究員に責任を取れと命令されました」

「責任、というのはなんだ?」

 ジョシュアは、今にも落としそうな雷を我慢するかのように、迫力のある声で聞いた。

 ドスが効いた声は、雷を落とされるよりも怖い。幼い頃から慣れているレーヴは、彼が怒っていることをひしひしと感じた。