「里桜さま?」
「だって、大樹さまが消えて結界が薄れてからもうすぐ丸三日が経とうとするのに、瘴気の量は増えることも減ることもしていないわ。裏緋寒を連れてきたからかもしれないけど、それにしたって幽鬼が入り込んでいるのなら……人間を闇鬼に堕とすより一気に潰しにかかってくると思うの」

 雲桜が滅んだとき、幽鬼は綻びを見つけると一気に攻め込んできたのだ。
 けれどいま、竜糸の結界が薄れ、ふだんより大量の瘴気が入り込んではいても、神を殺そうとする幽鬼の姿は見つけ出せない。

「もし至高神がすべてを仕組んだのなら、あたくしはその茶番を終わらせる」

 大樹を返してもらい、完全な代理神となって、竜糸の結界を締め直すのだ。
 そうすれば、裏緋寒である朱華のことで煩わされることもないし、たとえやむを得ず竜頭を起こしてしまったとしてもふたたび眠らせることができる。そもそも大樹がいれば竜頭のもとに花嫁を送る必要もなくなるのだ。

「……ですが、至高神がカイムの地にいる可能性は低いと思いますよ?」

 名案だと思ったのに、颯月はあっさりと釘を刺す。里桜はその可能性に思い至り、がっくりと肩を落とす。

「そ、それでも、大陸随一の大神殿なら……」
「あたるだけあたりますが、いいかげん竜神さまに起きてもらった方がいいような……」

 颯月は意地になっている里桜を見て、困ったように言葉を濁らせる。

「と、とにかく頼むわ!」

 里桜は颯月を追いだし、はぁと息をつく。