ひとと神とがともに生きるかの国(・・・)が産声をあげたのは数千年ほど昔のこと。
 ぽかりと海に浮かぶよっつの小大陸とそこへ連なる星屑のような島々が国の領土とされた。
 東西南北、北から南へ流れるように縦に細長いその国の最高権力者は、神皇帝(しんのうてい)と名乗った。
 神皇は国民からこの国を興した国祖とされる始祖神の『地』の加護を宿した息子と慕われ、その玉座は代々、始祖神の血を引く(すめらぎ)一族によって、継承されている。
 彼らは始祖神だけでなく、彼の姐神とされる天空を統べる神――至高神が産み落とした『天』のちからを持つ人間とも関係を持ち、国の統治を確かなものにしていた。

 だが、東西南北の小大陸のなかで、北に位置する北海大陸だけは、神皇の『地』のちからが通用しなかった。
 古代より神々と幽鬼と呼ばれる異形のモノとが争うその北の大地には、すでにその土地神と呼ばれる至高神の数多のこどもたちが、始祖神が人間の息子と国を興す以前より、この土地で生きていた先住民のために、幽鬼と対抗するためのちからを各々に振りまいていたからである。

 先住民たちは部族ごとに『雨』、『風』、『雷』、『雲』、『雪』の加護を持っていた。集落ごとに異なる土地神に護られながら暮らす彼らは加護のちからの強弱関係なしにカイムの民と呼ばれ、土地神とともに幽鬼からの脅威と戦っていた。
 そのことに深く感銘したときの神皇は、すこしでも力になればと帝都にいた『天』の少女をカイムの地へ送り出した。彼女は土地神たちの連携を強める巫女姫として活躍し、カイムの地で『雲』の男性との間に子を残した。天神の娘と呼ばれた彼女の子孫は『天』のちからを引き継ぎ、各集落の土地神とともにいまもなお神職に携わっているとされる。