そのまま、吹雪にかき消されるように、男の姿が消えていく。
 花残月のはじまりの日、それは朱華が十七歳を迎える誕生日。どういう意味かと追いかけようと朱華が手を伸ばすその瞬間が、いつもの夢の、あっけない終わり。

「待って、茜桜! 十七歳になったらあたしはどうなるの?」

 深海に潜っていたかのような重苦しさが身体を苛む。このまま浮き上がって呼吸をしたときが、意識を取り戻していつもと同じ朝を迎えるときだ。

 いつもと同じ……いや、すこし違う。

 茜桜という男が夢に現れたことを教えた日から、未晩は朱華の額ではなく口唇にまじないをかけるようになった。それまでは曖昧だった十七歳になったら結婚をしようというはなしも、ここにきて……やっぱり十日くらい前から、蒸し返されるようになった。
 たかが夢なのに。どうして未晩は念を押すのだろう。茜桜と名乗る男は神術に長けた未晩がそこまで警戒するような人間なのだろうか。
 毎晩同じ夢を見ているはずなのに、要領を得ない内容だからか、朱華はすべてを覚えきれない。未晩は心配することはないよと言ってくれたけれど、きっと、大事なことなのだ。
 今日こそこの夢のすべてを覚えていよう、そう思いながら、朱華はそっと、瞳をひらく。