渇いた女の強い思いは、日増しに激しくなりました。ところが渇いた女はどうやって感謝の恩返しをすべきなのか、さっぱり思いつきません。
 そんなある日のこと、お店によく来る御近所の奥様が渇いた女に思わず悩みを打ち明けたのです。
「母の世話が大変でね」
 認知症を患った夫の母親の介護が大変だというのです。
 お客さんは自宅での介護にとても疲れていて、目の前の優しそうな彼女をみるとつい弱音をはいてしまったのでした。
「ごめんね、つい愚痴ってしまって」
 お客さんがそう謝ると渇いた女は、
「お母様の介護をわたしにもお手伝いさせてください」
 と目を輝かせて言いました。
 渇いた女の口から無意識に出た言葉でした。
 お客さんはびっくりして、渇いた女を見つめると、
「あなたは本当に優しいのね。お気持ちだけ有り難く頂くわ」
 パンの代金を彼女の白くて華奢な手に握らせ、お店を出て行きました。
 渇いた女は自分の申し出を断られがっかりしましたが、彼女の目は活き活きと輝きました。

「わたしはついに人生の使命を見つけた」
 
 渇いた女は多くの人に支え助けていただいた、この感謝しきれない気持ちを、病気や障害を持つ人の介護や看護助手をボランテイアですることで、恩返ししていこうと決意したのでした。

心の闇
 
 渇いた女は家の近くの教会で、介護や看護助手の応援をさせて貰うことになりました。
 教会の施設にいる多くの人は、身寄りのない病人や家人に見捨てられた障害をもつ子供たちでした。初めは何をどうしたらよいのか全く分かりませんでしたが、同じボランティアの人達から仕事の要領を貪欲に学ぶと、次々と仕事をまかされるようになったのです。
 ボランティアは、お店が休みの日に行くことがほとんどでしたが、沢山の人の嘆き悲しむ声を聞くうちに、渇いた女の心は激しく痛み次第にお店が終わってからでも手伝いをしに行くようになりました。
 渇いた女は家族や社会に見捨てられた人、暴力や性的な虐待を受けた幼い子供たちの痛々しい姿をみると、自分の小さなころの苦しみと重なり、ますますその人たちに感情が入りこんでいきました。
 施設や病院では毎日のように沢山の人が病で死にました。誰からも見取られず涙も流されずあの世へ旅立つ人々。
 そんな孤独に死に逝く人たちを、