頭が朦朧として何も考えられない。

(あの後どうなったんだっけ)
確か警察が来てストーカー男はすぐ逮捕された。
私と祐奈は事情徴収を受けて両方の親が迎えに来た。
少し怖い雰囲気の祐奈のお父さんは今にも泣き崩れそうな顔をしていてそんな姿は初めて見た。
祐奈もお父さんの姿を見てまた泣きそうになっていたけどぎゅっと堪えていた。
今は、2人で私の部屋に居る。
会議中を抜け出して来たお父さんはまた戻らなきゃいけなくて、お兄さんも飲み会で家には誰も居ないからと私の家で泊まる事になった。
祐奈も私と同じようにまだ頭の整理がつかないのかいつもより静かだった。
しばらく経っても全く話さない。
なんて声かけていいかも分からずとりあえずテレビなんて付けてみたけど、この時間はあまり面白いのがやってなくて色々なチャルネルを見ていると、

「「あ」」

見たことある姿に祐奈も顔をあげた。
そこには、すごい人気のモデルが写っていた。
お洒落で高3なのに自分のブランド立ち上げちゃうくらいの大人気で祐奈が憧れている人。
「流行の最先端」と言ったらこのモデルらしい。
こういうのに疎い私でも、祐奈から色々聞いているからなんとなく分かるようになって来た。

「この子歌も出来るの?!」

お馴染みの音楽番組にはピンクのキラキラ衣装で登場する姿が映された。

「それはあたしも初めて聞いたんだけど」

衝撃の出来事に2人とも口を開いた。
ゆっくり息を吸って歌い始めた。

『↗︎♫~↓~🎶…』

「「…」」
ちょいちょい音程が外れていて2人で顔を見合わせ、吹き出してしまった。
それでも笑顔で一生懸命歌っていた。

「なんか好感度上がったんだけど」

「こういう所も好きなんだよね〜」
この時はさっきの恐怖なんて忘れられた。

いつもみたいに会話が盛り上がった。

「あの新作のマゼンダピンクのバッグすっごい可愛くて欲しいんだよね〜」

「それってCMの派手なまっぴんくのびっくりするくらい高いやつじゃん!」

本当に祐奈は瑛里華ちゃんが大好きで雑誌も欠かさず毎月チェック、わざわざ東京のお店まで行ってグッズを大量買い。
その子が出るファッションショーに即応募したのに大人気過ぎて当たらなかった日にはもう叫んでいた。

「バイトまでするくらい好きなの?」

私は憧れのアイドルやモデルとか居ないから全然分からなかった。

「見た目もそうだけど、あんなに自分に自信あってやりたい事全部叶えてる人なんてそう居ないと思うの。初めて瑛里華ちゃんを雑誌で見た時にね、すっごいキラキラしてて私もこんな風になりたいって思っちゃったの」

そういう祐奈の目もキラキラしていた。

「千夏も憧れの人とか見つければいいのにー
本当に夢中になっちゃってどっぷりハマるよ?可愛くなりたい!ってめっちゃ思うようになる」

「憧れの人ね…」

そんな人見つけられるのかなって思うけど、

でも。

「可愛かったら人生楽しいんだろうな」

ぽろっと出た言葉に自分でも驚いた。

(私でも可愛くなりたいとか思うんだ…)
思わず口を抑えた。
そんな様子を見て何か思いついたように祐奈が笑った。

「じゃあ、あたしが可愛くしてあげる!!」


「……へ?」
間抜けな私の声と共にからすが鳴いた。