「…あつい」
ジリジリと直射日光が肌を焼き付ける。

8月の夏休み真っ只中、私は汗を垂らしながらのろのろと自転車を漕いでいく。

(今日は最悪な日だった。)

昨日夜更かししたせいか、部活に遅刻して思いっきり先生に怒られた。
そういう日に限って失敗ばっかで先輩の目怖かったし。

軽い気持ちで入った演劇部は意外と大変だった。運動部じゃないのに腹筋やランニングまでさせられるなんて。
特にステージが近い今は、皆ピリピリして雰囲気最悪でステージに出ない1年生は雑用ばかりで休みも少ない。

「あーもう!」

目の前の信号が赤に変わった。
色んなイライラが集まって声に出てしまった。結構大きな声で。
目の前にいた同じ高校生らしきカップルが
ぎょっとした顔でこっちを見てきた。

その瞬間、信号が変わった。

(うわあ恥ずかしい)

そのカップルから離れるように急いで走ろうと思ったけど長くて辛い坂道を見て一気に気持ちが下がった。


とりあえず離れたくて近くのコンビニに入った。
ここは、小さい時からよく来ていて、大好きなチョココーヒーアイスを季節問わずに買っていた。
もちろん今日もこれを買った。

物心ついた時からこのアイスばっか食べていた。涼んだ所で外に出た。

もわっとした熱気に顔をしかめてしまう。

すると、坂道を下ってくる人を見かけた。遠くからでよく分からないけど若い男の人だった。

(ーーー私の苦手な分野。)

太ってるし可愛くない私は男の人に良い思い出が無い。こっちに向かってくるのが嫌でコンビニの裏に隠れた。

(もういなくなったかな?)

ひょいと覗くとちょうど自転車を停めてる所だった。


「…小日向爽」

ふわふわの猫っ毛に、寝ぐせ直しなのか横はピンで留めてある。黒のだぼっとしたワイドパンツにグレーのベーシックなTシャツ。
サンダルにはスポーツブランドのロゴが描かれていてラフだけど結構おしゃれだった。

小日向爽は、中学高校と同じなのに1回も話した事が無くて、今年初めて同じクラスになった。

コンビニに入っていくのを見てほっと胸を下ろした。

(アイス溶けちゃうしここで食べちゃお)

コンビニの裏の影で食べた。
空きっ腹に染みる甘い味。ほんの少しビターな感じも安定の美味しさだった。

昔からずっと食べ続けてた味だけど、ふと思い返してみるといつから食べてたのか全く思い出せない。ぼんやりとそんな事を考えながら食べるとあっという間に無くなってしまった。

食べ終わった棒を見つめると当たりの文字は無かった。ゴミを捨てに行こうと飛び出そうとした瞬間、コンビニの袋を持って出てきていたのだった。


「危な…」

会ってしまうのはなんか気まづいと少し様子を見てみる事にした。
がさごそと中から出てきたのは私と同じチョココーヒーアイス。何十種類もある中であの味を選ぶなんて。

(え、ここで食べるの)

早くここから帰りたいのに帰れない。
絡みの無い同級生の食べる姿を観察してる変な状況。暑さに耐えながらじっと待っていた。ちらっと食べ終わった棒を見つめて小さく息を吐いた。


(はずれだったな)

でも、このアイスを当たり付きと知ってるなんて珍しい。私の友達に聞いても知らなかったーって言ってたのに。
いつも澄ました感じなのに意外とこういうの気にするんだと思うとちょっと面白い。
もうゴミは持ち帰る事にしようと帰ろうとした時なんと目が合ってしまった。


「うわあああ!?あの、えっとじゃ、じゃあねえ」

「…あ、うん」

猛ダッシュでその場を後にした。


「やばいやばいやばいやばい」

風を切ってびゅんびゅん景色が変わっていく。まさかあのタイミングで会うなんて。

(ストーカーって思われた?しかも、大声出してパニクってたし…!絶対汗臭いって思われたああ)
曲がり角でふと横を見ると車の窓に自分が写った。


「…!?」
脂で束になった前髪。ニキビだらけで二重アゴ。練習だったから、中学からずっと着てるぴちぴちTシャツにジーンズ。JKとは思えないファッション。

(本当最悪な1日)
皆、周りの女の子は細くて可愛くてかっこいい彼氏が居て。なのに私は勉強も運動も苦手で部活も上手くいかなくて太ってて彼氏なんて出来た事無い。
「こんな自分大っ嫌い」
そんな独り言も蝉の声で掻き消されてしまった。