それから、診察の日になり私はいつもの検査と診察を終えてから、大翔先生に別の部屋へ案内された。



ここは、医者の使う仮眠室で夕方の時間は誰も来ないからとここに連れられていた。




「沙奈。話せそうかな?


ゆっくりでいいから。」



大翔先生は、私の様子を見ながらそう言った。



「うん。


私ね、なりたい職業があるの。


だけど、早く就職して2人の負担を減らして恩返しをしたいとも考えているの。


高校に入ったばかりの頃は何の戸惑いもなく就職の道を選んでいたの。



早く、就職して1人でも生きていけるように自立したいって思ってたの。


それが、私にできる2人への恩返しだと思ったから。


だけど、自分が病気になって病院で働く紫苑や翔太、大翔先生を見ててなりたいものが見つかった。


誰かが、暗闇の中で泣いたり迷ったりしていたら手を差しのべていきたい。


誰かの心に、寄り添える存在になりたい。


私ね、心の治療を専門とする医師になりたいの。


私が、してもらったようにこの温もりを知らない誰かに教えていきたいって思ったんだ。」



そう。



これは、色んな人と出会ってから見つけられた夢。



何も知らなかった人との繋がりや温もり、愛情を私に教えてくれたから見つかったもの。



私の、尊敬する人達だから私もそうなりたいって思った。



せっかく、あんな環境の中で生き延びることが出来たなら、この人生を誰かのために使いたいって思った。




「沙奈…。


ごめん、俺泣きそう…。」



大翔先生は、そう言って目頭に涙を溜めていた。



「ごめんなさい!


やっぱり私、早く自立した方が…」



大翔先生は、それ以上何も言わせないようにと私の唇に手を当てた。



あまりにも唐突で、心臓がうるさいほど音を立てていた。




「それ以上は、言わないで。


違うんだ。沙奈の思ってるようなことじゃないんだ。


ただ、嬉しかったんだ。


沙奈に、そういう風に言ってもらえて。


沙奈。もし、紫苑や翔太のことを考えて就職にしようとしているならそれはやめた方がいい。


あの2人は、沙奈の本当になりたい夢を応援したいと思うんだ。



沙奈が、何かを妥協して選ぶ進路を2人は望んでいないと思う。



沙奈を引き取る事を決めたのも、そういう学費とか生活費のこととか全て自分達で責任を持つ思いで、沙奈を引き取ったんだと思うよ。



人を育てることは、生半可な気持ちでできるような事じゃない。



それに、2人にはちゃんと責任感がある。



だから、もしそのことの心配をしているのであればそこは深く考えなくてもいいと思うよ。」




本当に、いいのかな?



私も、進学の道に進んでも。



もう1回、紫苑や翔太と一緒に話し合ってみようかな。



「私、もう1回紫苑や翔太と話してみる。」



「そうだね、そうするといいよ。


俺は、沙奈の夢を応援するから。」



大翔先生は、そう言って私の頭を自分の胸へ引き寄せ気づいたら抱きしめられていた。



「俺も、夢を叶えたいと思ってる。



沙奈を、一生かけて守ること。」



「えっ?」



「何でもないよ。


沙奈、あまり無理はしないようにね。


喘息の発作は落ち着いているから、とりあえずは大丈夫だと思うけど。


何かあったらすぐに連絡してね。」



「うん、ありがとう。」



大翔先生の、言葉は小さい声だったけどはっきりと心の中に響いて聞こえた。



大翔先生に話したことで、正直な気持ちを翔太や紫苑へ話しても大丈夫と思えた。



全て、自分で解決しようとしなくてもいいと気づくことができた。



だけど、この心臓の動悸は何なんだろう。



大翔先生と一緒にいて触れられると、胸が苦しくなって、体も熱くなっていく。



抱きしめられたら余計、離れたくなくなってしまう。



ずっと、この腕の中にいたいって思ってしまう。


紫苑や、翔太に時々抱きしめられたりするけどこんな感情になったことはなかった。


初めて味わうこの感情は何なんだろう。