この罵声。
あの時と、何も変わってない。
こいつは、私達に意思はないといつもそう言っていた。
奈子も、体力と気力の限界だった。
ここは、田舎だからここに来る人の数は元々少ないし、市役所の職員も滅多に外へは出てこない。
誰か…
助けて。
外で始まる、こいつからの暴力。
私のことを、庇う奈子。
だけど、私も奈子を守りたい一心で行動していた。
痛い、苦しい。
こんな感覚、久々だった。
「お前、でかい口叩いてた癖に弱わいな。
ここは、人も来ないからたっぷり遊べるとっておきの場所なんだよ。」
奈子にトドメを刺すかのように、刃物を向ける父親。
奈子に降りかかった時、私は咄嗟に奈子に覆いかぶさっていた。
背中に貫通する刃物。
男と女の重なり合う、汚らしい笑い声。
次第に薄くなっていく景色。
あれ…
痛みがなくなってきた。
「こいつ、もう死ぬぜ?
お前、俺と同じ犯罪者だな!
お前のせいで、こいつは死ぬ。
無様だな。」
奈子のことを蹴り飛ばし、その男と女は去っていった。
刃物で刺されたのは2回目で、前にも刃物を首に突きつけられ切られたことがあった。
「沙奈…。
沙奈、しっかりして!!
あんた、どうして…。」
奈子は、私の体を半分起こし刺されている所を強く布で押さえてくれた。
それから、救急車が到着し救急隊員の顔を見た安心感からか、私は意識を手放し深く暗い闇の中へ落ちていった。


