「てめぇ!何すんだよ!」
ビクともしない奈子。
「お前、犯罪犯しまくって何年警察署にいたんだよ。
お前みたいなやつ、死んだも同然なんだよ私たちにとっては!
いいか、お前の血が流れているだけで反吐が出そうになるんだよ。
でもな、この子と同じ血の繋がりがあるって思ったら、だいぶ楽になったんだよ。
あんたみたいな奴に沙奈の心は汚されなかったからな!
この子は私と違って心が清らかなんだよ!
だから、沙奈に手を出す奴は私が許さない。」
背中から、喘鳴が聞こえている。
自分も喘息を患っているから分かる。
奈子も、喘息を患っていると翔太から聞いたことがある。
「奈子、もう…いいよ。苦しいでしょ。奈子。」
「いいの、沙奈。
沙奈、沙奈は私の後ろに隠れてて。
私は大丈夫だから。」
奈子は、私を不安にさせないようにといつもの優しい笑顔を私に向けた。
『無理して笑わなくていいよ。』
ふと、紫苑の言葉を思い出した。
辛い時に、笑顔でいるのは死ぬほどきついし心も限界に来ている時なんだと思い出した。
私、守られてばっかでいいの?
私も、奈子のためにこの人と戦わなければいけないんじゃないの?
そうだ。
心や身体がボロボロになっても、私はもう1人じゃない。
今なら、心や体がこいつにどれだけ傷だらけにされても大丈夫な気がした。
頑張ったねって優しく抱きしめてくれる人がいるから。
「奈子、私もこいつ憎い。
下がってばかりではダメなの。私も。
前へ進めないから。」
「沙奈…。
絶対、無理はするなよ。」
笑顔だった奈子の表情は変わり、真剣な目で私の身を案じた。
「分かってる。」
「さっきから何の話?
私関係ないんだけど。
こいつら、あんたの子供?」
「夕莉、そんなわけないだろ?こんな奴ら。
こいつらは、俺の餌食となった女から出てきた奴らだよ。」
「かわいそうな子達。
こんなクズから産まれてくるなんて、汚れてるねあんたらの血。」
クズ?
今、クズって言った?
どうして、あなたはこの人の恋人か何かじゃないの?
「その顔、ウケる。
こいつの女かと思った?
教えてやろうか?こいつは私のセフレだよ。
やり手は上手いくせに男としては最低だからね、こいつ。
私はね、もしこいつとの子供が腹に宿ったらいち早く降ろすって決めてんの。
お前らの母親みたいに、馬鹿な女じゃないわけ。」
「子供を…降ろす?」
お腹に宿る命を、そんなに簡単な一言で殺してしまうの?
心や体は痛まないわけ?
「お前ら、もう1回遊んでやろうか?
言っておくけど、お前らみたいなやつに物を言う資格はないからな?
否定する権利さえもないんだよ。」


