「ごめんなさい、私…。」
しばらく沙奈の眠りを見守っていると、沙奈は目を覚まし俺の姿を確認してから急いで起き上がろうとしていた。
俺から離れようとした沙奈を、すかさず自分の腕の中へ引きずり戻していた。
「いいんだよ。」
離れてほしくなかった。
「大翔先生…
私は大丈夫だから、離して下さい。」
もう、大丈夫じゃないことは目に見えて分かる。
「無理に、大丈夫だなんて言うなよ。
沙奈の気持ちは、沙奈にしか分からないんだ。
1番、自分の気持ちから目を瞑ってはダメだよ。
分かってあげられるのも自分なんだから。」
「離して…。」
「沙奈…。
昨日、何があったんだ?」
様子を見ていた紫苑が、沙奈に問出した。
「関係ないよ…。
紫苑や翔太に何の関係があるの?
私たち、本当の兄弟なんかじゃ…」
俺は、咄嗟に沙奈口を押さえていた。
言葉は、1度外に出してしまったら取り消すことなんて出来ない。
沙奈の口から、そんな言葉を聞いたら2人は深く傷ついてしまう。
『本当の兄弟なんかじゃない。』
きっと沙奈は、そう言いたかったのだろう。
だけど、簡単に口にしてはいけない。
「沙奈、関係なくなんかないよ。
少なくとも、紫苑や翔太は沙奈の家族なんだ。
沙奈のことで、2人は責任を感じているんだ。
だから、関係ないなんて言うな。
本心でないことは、言葉に出すようなものじゃない。」
沙奈の表情を見たら、そんなこと本心で思っているわけがない。
「大翔先生…」
俺の言葉を聞き、少しだけ落ち着きを取り戻したのが分かった。
「何も知らず、沙奈が苦しんでいる様子は見たくないんだ。
何も出来ない悔しさに俺も、紫苑達も押し潰されそうになる。
だから、沙奈。
1人で抱え込まないでほしいんだ。」
沙奈は、俺からすこしだけ体を離し紫苑や翔太の表情を確認した。
それから、沙奈は深呼吸をして少しずつ話をしてくれた。
「大翔先生、先生は加須見先生って知ってますか?」
「知ってるよ。たしか、小児科医の…」
「まさか…
嘘だろ?」
紫苑は、青ざめていた。
何か、関係があるのか?
「まさか、そいつ…
沙奈の父親と同じなのか?」
沙奈は紫苑の言葉に頷いていた。
そんなことがあるのか?
本当にそうだとしたら、沙奈の実の兄に当たるのか?
だけど、沙奈は1人っ子だったんじゃなかったのか?
「きっと、私の父親はきっと何人かの女性と身体の関係を持っていたんだと思います。
兄がいるなんて、聞いたこともなかったし冨山さんからそんな話もされたことがありません。
ここの病院に、その実の妹である早見奈子ちゃんが入院してるんです。
奈子ちゃんは、私と同じ高校で知り合いなんです。
昨日、リハビリの時に奈子ちゃんからその話を聞きました。
父親の名前は聞かなかったけど、私と同じ苗字であること、奈子ちゃんはその父親が最低で自分も養子縁組に出されたと言ってたのできっと間違いないかと思います。」
震える沙奈を、ただ抱きしめることしか出来なかった。
「私、悔しい…。
早く、忘れればいいだけの話だけどお母さんをあの人は裏切ってたってことですよね。
それなのに、あの人は別の家庭も持っていたって考えたら許せない。
その最低な血が、私にも流れてるなんて思うと余計に辛い。
この血縁関係が、私を支配してるみたいで…。
そう考えるだけで吐き気がする…。」


