もしも願いが叶うのならば、私は君の光になりたい

天沢はすごい。

でもいつだって、自信に満ちているようには見えない。

控えめで、謙虚で、威張ることなんてなくて。

自分を曝け出すことも、人に自分の意見を押し付けることも、自ら人前に出ることもしない。

誰よりも他人の気持ちに寄り添える、優しい人だ。


…だから、自惚れてはダメだ。


彼は私と違って人の悪いところなんて見つけようとしない。

人の良いところを少しも嫉妬せずに見つけられる、純粋無垢な人間だ。

もしあの屋上にいたのが私でなくても、天沢は持ち前の純粋さと優しさでその人を心から救いたいと思っただろう。



天沢は私の特別だけれど、私は彼の特別でもなんでもない。

王子様、と言って群がる学校の皆と同じ、いや、それ以下の平凡な人間。


わかってる。



「信じられないよね、ごめん」

私の心の全てが顔に出ていたのか、天沢は寂しそうに微笑んだ。


何にどう謝っているのか、全くわからない。

でも、彼が謝るべきことなんて一つもないのは確かだ。

「なんで謝るの…?私はただ…天沢は他の人にだって優しくできる人間なのにって思っただけ」

自分でも情けないなと思いながらも、嘘を吐くよりマシだと信じて本音を吐く。

天沢は口下手な私が省略してしまった全てを悟ったかのように、ゆっくりと落ち着いた様子で首を振った。

彼のことを理解できない私とは、やっぱりどこまでも正反対だ。

「そんなことないよ。水瀬さんは代わりがいるような人間じゃない…けれど。
きっとこの言葉は君には届けられないね。

でも…もしも、仮に僕が誰にでも優しくできる人間だったとしても。

あの日、僕と出会ったのは水瀬さんだった。

今はその事実だけで充分じゃないかな」

天沢は風に身を任せるかのように、静かに瞳を閉じた。

さらさらと、緩やかな風が髪をたなびかせる。

私は、天沢の言葉をひたすら頭で繰り返していた。

あの日、私と出会ったのは他の誰でもない、天沢だった。

その事実だけで…充分。




天沢を見習って少しは素直になろうか。

信じて、受け入れようか。


それがたとえ、短く儚い夢でも。