「ずっと…君の、水瀬さんの力になるためにはどうすれば良いのかなって、考えてた。
…でも、答えは出なくて。
何もできなかったと思ってたから。
嬉しいよ。そんな風に言ってもらえて」
天沢はふ、と今にも崩れそうな儚い笑みを浮かべた。
何だか本当に伝わっているのか良くわからない。
素直だから、私が言ったことを受け入れてはくれているはず。
それなら、言葉が足りないのだろうか…。
「側にいてくれるだけで良いよ。それだけで、天沢の優しさとか、温かさとかちゃんと伝わってくるから。
私にとって天沢は代わりなんていない存在なの」
顔を見ては言えなくて、走り回る子供達に目線を送りながら呟いた。
しかし、しばらくしても甘い声が聞こえないので、不思議に思って横を盗み見してしまった。
「天沢?聞い…」
いつもは白い肌がほんのり桃色に染まっているのに気づいて、言葉が出なくなる。
ん…!?
私、結構恥ずかしいこと…言ってた?
嘘…やばい、天沢に伝えるので必死で…!
「…僕も。僕もだよ」
顔から火が出そうな私に、天沢は追い討ちをかけるように美しい声で言葉を綴った。
もうやめてっ!と思ったけれども、天沢の細い手が太腿の上でぎゅっと握られているのを見て、何も言えなくなる。
天沢はいくら天才でも、人間だ。
言いたいことを言うのに勇気だっているし、伝えたいことを伝えられないことだってある。
彼はいつだって私の話を静かに聴いてくれた。
私も、聴かなきゃ。
恥ずかしがってる場合じゃない。
「あの日、屋上に立っていたのが…他の人だったとしても、僕はきっとあの階段を上った。
でも、こんなに強く生きて欲しいとは思わなかったと思う」
天沢の瞳がいつになく揺らいでいて、私は彼の顔を真っ直ぐ見ることができなかった。
ゆっくりと強く握りしめられている彼の手から、力が抜けていく。
「君はどんなことをされても、人を責めなかった。たくさん辛い思いをしたのに、誰かを傷つけるような発言を一つもしなかった。
そんな君を、綺麗だと思ったんだ」
桜の吹雪に包まれた天沢は、花が開いた瞬間のように光に満ちた笑顔を浮かべていて、この世の誰よりも綺麗に思えた。
