「やった、同じクラスだね!」
「え、マジ!嬉しすぎるんだけど!」
雑音を耳に入れながら、私は新しい教室…二年一組へと向かっていた。
敢えて言うことでもないが、私は同じクラスに誰が居ようがどうでもいい。
天沢に居て欲しいのか、居て欲しくないのかもわからないくらいだ。
だって彼と皆の前で接するつもりはないし、寧ろ私たちの関係がバレる危険性が高くなるだけ。
まあ、大した関係ではないんだけれど。
だから私は自分の名前だけを確認し、後は全て無視してここまで来た。
新しい教室に入り、黒板に書いてある席に着く。
廊下側の、後ろから三番目。
頬杖を突いて静かに瞼を落とす。
教室内も廊下も人通りが多いし、五月蝿くて見てられないから。
「ちょっっ!?やばいやばいっ!!」
「きゃあっっ!夢みたいっ!!」
いきなりの黄色い歓声に、私はこれから見える景色を悟りながら重い瞼を開いた。
光を浴びて淡い金色に輝く、柔らかい髪。
誰もが魅了される、光が詰め込まれたみたいに澄んだ瞳。
すっと通った綺麗な鼻筋。
緩く結ばれた、薄いのに柔らかそうな唇。
傷一つなく滑らかで白い、透き通った肌。
今にも折れてしまいそうなくらいに細い身体。
もちろん、女の群れの中心にいるのは…
「「千晴くんっ!」」
喜びと呆れと安堵と不安。
わからない。
自分の感情の形が。
天沢の心の中が。
「おはよう。一年間よろしくね」
天沢の柔和な声は、この前会ったときから何一つ変わらない。
神様に好かれる人間ってのは…
願いもこう、淡々と叶ってしまうのか。
「わっ、マジで?天沢いんじゃん。お前、女子全員虜にすんから、俺ら寂しいわ」
男子まで、彼に吸い込まれていくようにまとわりつく。
まるで掃除機みたい。
それか…砂漠のオアシス?
草原に咲く薔薇?
天沢はどんどん群がっていく人にか、さっきの男子の発言に対してかわからないが、少し困ったように首を傾げる。
それでも笑みは忘れずに。
「ま、こいつの冗談はさておき、よろしくな」
「わっ、ひでぇ!冗談とか言ってられんのも今だけだからな!?こいつの王子様度舐めんなよ?」
天沢は何も返さずに、切ない笑みを保ちながらさりげなく道を進んでいく。
否定したら嫌われる。
だから、何も言わないのだろう。